ロシアの「日本文化研究新シリーズ」結実

 梅田善美日本文化研究基金では、ロシアの若手日本文化研究者を応援するため、5年にわたり毎年一人を選出し、その研究成果である論文を「日本文化研究新シリーズ」として出版していたが、2018年で最終回を迎えた。
 この企画には当初、ロシアの日本学において指導的立場におられたエリゲーナ・モロジャコワ教授(ロシア科学アカデミー東洋学研究所副所長・日本研究センター長=当時)から、全面的な協力をいただいていたが、現在は、ご子息であられるワシーリー・モロジャコフ拓殖大学国際日本文化研究所教授に、バトンタッチされている。
 お二人には、論文の選定から出版まで多岐にわたり煩雑な作業を担当していただき、その結果、5人の気鋭の日本文化研究者による論文を出版するという当初の目的を達成することができた。

 モロジャコフ教授は、「若手の研究者にとっては、研究の結果を発表して最初の単行本を出すのは一番難しいことなので、梅田善美日本文化研究基金からの援助は特にありがたかった。出版された研究論文5冊は、学術的な価値が高いと同時に、ロシア語の世界における日本の伝統文化と宗教の理解をさらに深く正確にするものだと確信している」と述べておられる。
 この企画を終わるにあたり、モロジャコフ教授とご母堂のモロジャコワ教授に心よりの感謝を送るとともに、私どものささやかな基金によって論文を出版された5名の新進の学者たちが、さらに研究にはげまれ、ロシアの日本研究の泰斗となられることを祈ってやまない。

2014年
フェヂャーニナ・ウラドレーナ氏(モスクワ市立教育大学付属外国語大学日本語学科長)
『菅原道真:詩文の神、菩薩の化身―天神信仰の初期の歴史(9世紀~12世紀)―』 
Федянина В. А. Покровитель словесности и воплощение бодхисаттвы: Сугавара Митидзанэ и ранняя история культа Тэндзин (IX-XII вв.) .   

2015年 
ホスホフ ・スヴャトスラフ博士(ロシア科学アカデミー東洋学研究所日本研究センター研究員 )
『戦国時代の分国法――資料の研究と翻訳』 
Полхов С. А. Законодательные уложения Сэнгоку дайме: Исследования и переводы.

2016年 
バブコーワ・マイヤー博士(ロシア科学アカデミー東洋学研究所日本研究センター研究員)
『道元禅師――活動と著作。正法眼蔵』
Бабкова М.В. Наставник созерцания Догэн: жизнь и сочинения: вместилище сути истинного закона 

2017年 
シェプキン・ワシーリー博士(ロシア科学アカデミー・東洋文献研究所研究員)
 『北風――18世紀日本におけるロシアとアイヌ』
Щепкин В. В. Северный ветер. Россия и айны в Японии XVIII века.

2018年 
ドゥーリナ・アンナ博士(モスクワ国立総合大学付属アジア・アフリカ諸国大学日本史・日本文化学科教授)
 『八幡神とは厳しい武神か慈悲深い大菩薩か――日本での八幡信仰の形成と発展、8世紀~14世紀』
Дулина А.М. Метаморфозы Хатиман: грозный бог войны или милосердный бодхисаттва? (Становление и эволюция культа божества Хатиман в Японии в VIII–XIV вв.)

2018年 ロシア若手日本文化研究者育成

梅田善美日本文化研究基金による2018年の論文発表者に選ばれたのは、ドゥーリナ・アンナ博士です。博士の略歴と発表論文については、次のリンク先をご参照ください。

2018年ロシア若手日本文化研究者育:ドゥーリナ アンナ博士

 

著者:ドゥーリナ アンナ

 1981年11月5日ロシアのウラル地方で出生、ノボシビルスクの学術都市であるアカデムゴロドクで成長。1999年9月ノボシビルスク国立大学人文学部東洋学学科入学、2005年6月同校卒業。2006年4月から2008年4月まで2年間、日本の文部科学省奨学金研究生として富山大学人文学部人間学科に留学。2008 年4月に富山大学大学院人文科学研究科に入学。2010 年4月に修士論文「八幡信仰における神仏習合―『八幡愚童訓』を中心に」を提出して修士課程を修了した。
 帰国後の2010年10月、モスクワ国立総合大学付属アジア・アフリカ諸国大学日本史・日本文化学科大学院博士課程に入学。博士論文「中世日本における八幡信仰の形成および発展」により2013 年11月に博士号を授与された。2014年からモスクワ国立総合大学付属アジア・アフリカ諸国大学日本史・日本文化学科で教授として勤

2017年 ロシア若手日本文化研究者育成

 2017年の梅田善美日本文化研究基金による2017年の論文発表者に選ばれたのは、シェプキン・ワシーリー博士です。博士の略歴と発表論文については、次のリンク先をご参照ください。

2017年「18世紀日本におけるロシア知識とその影響」(PDFファイルが開きます)

著者:シェプキン・ワシーリー
ロシア科学アカデミー・東洋文献研究所の研究員。1986年にイルクーツクに生まれ、2007年にイルクーツク外国語大学を卒業し、2011年に東洋文献研究所で「近世日本の思想史における林子平の『海国兵談』」という博士論文を発表。2013・2014年に国際交流基金のフェローとして北海道大学アイヌ・先住民研究センターで『18世紀日本におけるロシア知識とその影響』という本をまとめた。

2016年 ロシア若手日本文化研究者育成

2016年の論文発表者として選ばれたのは、ロシア科学アカデミー東洋学研究所日本研究センター研究員のバブコーワ・マイヤー博士で、論文タイトルは「道元禅師――活動と著作。正法眼蔵」です。

バブコーワ・マイヤー著
道元禅師――活動と著作。正法眼蔵(翻訳)
 本論文は、鎌倉時代の優れた伝道者である道元禅師(1200–1253年)の評伝であり、その思想と行動の総合的研究である。世界的に広がる曹洞宗の開祖である道元禅師は、宗教家、禅師、座禅を唱えた人物というだけでなく、現在でも奥深い思想家として名高い。道元禅師は矛盾した様々な考え方を結合させられた僧である。
 道元という人物は、不立文字と教外別伝を原則とした禅宗の禅師であった。鎌倉時代の仏教を改革し、釈迦如来の真実の教道を復興できると信じた。高貴な家族に生まれながらも、一生世間の価値や財貨を批判し、貧乏な農業従事者のなかに大勢の人を集めたり、修道院での活動だけを認められた。禁欲したり、多くの弟子をもち、貴族たちから庇護を受けたりもした人物である。
 道元は知識が深く、文学の才にもたけ、自身の才能を和歌や思想書などで十分に表した。道元の思想や議論は、現代の社会でも本当に生きるものであり、筆者は、道元の考え方を研究すればするほど、ほかの読者も興味をもつものと信じている。
 本論文の内容は以下の通りである。「序文」は作者と道元の思想との出会いを語り、現在道元研究を検討している。第一章「仏法道元の人生」は、歴史上と伝承上の道元の生涯を比較している。第二章「道元の著作」は、「普勧座禅儀」、「学道用心集」、「三百則正法眼蔵」、「正法眼蔵随聞記」、「永平廣録」などを分析している。「正法眼蔵」の翻訳は添加になる。この作品には、道元の教え方がもっと明らかになる。
 本論文は日本史研究者、宗教史研究者及び日本文化と仏教思想に関心がある読者向けである。(無断引用禁止)

【著者紹介】

バブコーワ・マイヤー。
モスクワ国立大学哲学部宗教学科卒業(平成14年)。哲学博士。ロシア科学アカデミー東洋学研究所日本研究センター研究員。専門は日本宗教(神道と仏教)の思想と歴史、禅宗と現代世界。

2015年 ロシア若手日本文化研究者育成

2015年の論文発表者として選ばれたのは、ロシア科学アカデミー東洋学研究所日本研究センター研究員のホスホフ ・スヴャトスラフ博士で、論文タイトルは「戦国時代の分国法の基礎的研究」です。論文の内容については、次のリンク先をご参照ください。2015 年選出「戦国時代の分国法の基礎的研究(PDFファイルが開きます)

2015年選出『戦国時代の分国法の基礎的研究』

【著者紹介】歴史学博士。ロシア科学アカデミー東洋学研究所研究員。研究の分野は15-16世紀の日本の社会史、法律史、政治制度史。2000年にモスクワ国立大学歴史学部卒業。2008年に東洋大学(モスクワ)日本学科卒業。交換研究員として法政大学で留学した経歴を持つ。

2014年 ロシア若手日本文化研究者育成

2014年に選出された研究者は、フェヂャーニナ・ウラドレーナ氏。出版された本のタイトルは『菅原道真:詩文の神、菩薩の化身 ―天神信仰の初期の歴史(9世紀~12世紀)―』で、フェヂャーニナ・ウラドレーナ氏がモスクワ大学で博士号を取得した、菅原道真の研究をまとめたものです。

Lada『菅原道真:詩文の神、菩薩の化身-天神信仰の初期の歴史(9世紀~12世紀)―』
【著者紹介】 フェヂャーニナ・ウラドレーナ氏
歴史博士、助教授。1989年モスクワ国立歴史・資料大学を卒業。2001年モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学(日本語学科)を卒業。アジア・アフリカ諸国大学で博士号を取得。日本の大学(創価大学、慶応大学)に留学し研修する。2002年から2013年まで神道国際学会のロシア事務所に事務局長として勤務。2007年からモスクワ市立教育大学付属外国語大学の日本語学科に助教授として勤務し、日本史、日本宗教を担当。研究分野は古代・中世日本の宗教、文語。

ロシアの若手日本文化研究者育成の支援活動

ロシアの若手の日本文化研究者育成のため、5年間、毎年一人に研究成果を出版する機会を提供しています。ロシア側の協力者にモロジャコフ・ワシーリー拓殖大学教授を迎え、若手研究者の選定から出版までの煩雑な作業を担当していただいています。

2015年 ホスホフ ・スヴャトスラフ博士(ロシア科学アカデミー東洋学研究所日本研究センター研究員 )
論文タイトル「戦国時代の分国法の基礎的研究」 =詳細はこちらをクリック=

2014年 フェヂャーニナ・ウラドレーナ氏
論文タイトル「菅原道真:詩文の神、菩薩の化身 ―天神信仰の初期の歴史(9世紀~12世紀)―」 =詳細はこちらをクリック=