伊勢の神宮 お白石持ち行事に参加《平成25年8月1日~2日》

2013年(平成25年)は、伊勢の神宮の式年遷宮の年です。伊勢の神宮で式年遷宮の制度が始まってからおよそ千三百年。今回で第62回を数えます。
平成16年正月、天皇陛下から遷宮に関わる聖旨がありました。そして、翌17年5月、山口祭・木本祭を嚆矢として、足かけ九年にわたる「第62回神宮式年遷宮」事業は幕を開けたのです。
爾来、多くの祭典と行事にいろどられ、さまざまな人たちのご奉仕と思いを集めながら、遷宮事業は着々と進行してきました。
そして今秋には、クライマックスの「遷御」を迎えます。内宮は十月二日、外宮は同五日と、陛下の御治定により決定しています。

「神宮式年遷宮」は、造り替えることで永遠をめざし、二十年に一度、古式を厳守して生まれ変わり、この国の本義を未来永劫に伝えていく――という、世界にも類のない、わが国の古代の祖先が生み出した発想と叡智の賜物です。
私たちは、この行事にただ興味だけで参加するのではなく、この機会に、「永遠とは何か」「再生とは何か」「繰り返すとは何か」ということを、大神様のお膝元で、考えてみたいものです。

御白石奉献行事について
新しい正殿へのお引越し「遷御」を二ヵ月後にひかえ、この八月(正確には七月二十六日~九月一日)には、一般の崇敬者が参加できる最後の行事「お白石持行事(御白石奉献)」が行われます。
御白石奉献とは、伊勢の旧神領民をはじめ全国の特別崇敬者が、檜の香りもかぐわしい新宮の建つ御敷地に、一ヵ月をかけて、白石を敷き詰めていく行事です。御白石は、乳白色で、こぶし大で、石英岩である……という厳密な条件で、伊勢市民がこぞって宮川の河原から採集したものです。その数は約四十万個に達します。そして、参加者一人ひとりが、白布に御白石を包み抱き、御敷地に進み入って奉献するのです。
この行事の特徴の一つは、旧内宮領・旧外宮領の区別なく、神宮領民が両宮に奉献できることで、全国の崇敬者は、真新しい御正殿を、まさに間近で、じかに拝することのできる稀有の機会なのです。
ちなみに前回(平成五年の第六十一回式年遷宮)は、全国から、二十万五千人が伊勢に集結、この「お白石持行事」に参加したということです。私たちは「お木曳」のときからお世話になっている誉ある伊勢市小川町の町民となって、この晴れやかな行事に参加させていただくのです。

浜参宮について
私たちの奉献団は、ロシアからの参加者28名を含めた116名で構成されています。「浜参宮」は、御白石奉献を前に心身を清める、いわゆる「禊」に相当するものです。かつて、伊勢の神宮に参拝する者は、その前に二見浦で「禊」を行うのが慣わしだったのです。神宮をのぞむ二見浦は、まさに清き渚なのであり、清浄を事とする神事・奉献には不可欠な行為だったと言えるでしょう。今では、海に入る「禊」はしませんが、「お白石持行事」に参加する全国からの人々も、この「浜参宮」を行うことになります。
私たちは、八月一日午後一時に二見興玉神社を参拝し、小川町の一日町民としてこの「浜参宮」を行います。二見の海で採れる海藻である無垢塩による祓いを受けて、すがすがしく翌日の奉献に向かいました。

いよいよ奉献の日。小川町「勢勇団」の奉曳・奉献に参加
八月二日、早朝から、あっぱれ過ぎるほどの、真夏の濃紺の青空が、神都・伊勢に広がりました。伊勢の町は、伊勢の神宮の御白石持ち行事で沸き返っています。
私たち奉献団はこの日、ほまれ高き神領地・小川町の勢勇団に加わらせていただき、真新しい御正殿の建つ内宮・新御敷地に「お白石」を奉曳し、そして、心を込めて奉献もうしあげるのです。
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この日、朝八時すぎ、出発地である浦田の広場に到着すると、私たちが綱で曳く、御白石を積んだ奉曳車はすでに、時今おそしと待機していました。
浦田奉曳で、小川町勢勇団の出発は二番目。一番奉曳の京町さん、三番奉曳の宮沼さんの一団も結集し、朝から気温がグングン上昇する温気に劣らず、勇み立つ奉献団の熱気も、負けてはいません。
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神宮で副楽長を務める岡茂男さんが、私たち一団を見つけ、駆け寄ります。一緒に曳くという岡さんは、そわそわと落ち着かない私たちに「御垣内では、すがすがしい新殿の様子を心で感じ、心にしっかり残して欲しい――」と、助言くださいました。
八時四十分、いよいよ進発式です。木遣りの披露後、勢勇団の平生団長さんが「威勢よく、そして明るく元気に、楽しく奉曳させていただきましょう」と挨拶されました。
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九時過ぎ、いよいよ奉曳の開始です。奉曳車に繋がった綱を引っ張りながら、約一キロある「おはらい町」へと一気に突入し、ときに勢勇団の地元の方々の木遣り歌が高らかに奉唱され、ときに二本の綱を両側からぶつけ合う「遊び」も加えられながら、灰瓦の家並みの続く街路を進みます。参加している老若男女、みな童心に帰ったような、「無邪気」な笑顔が弾けています。
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奉曳者らの、そんな笑顔を見ながら、また、自身の気持ちの高ぶりを感じながら、数年前、遷宮ご用材を曳き入れる「御木曳行事」に参加したときの感慨を思い出していました。
その時の、人々の喜びの表情には、「伊勢の大神様に、今、ご奉仕できていることが、嬉しくてしかたがない」という、そんな素朴な、子供のような「無邪気」な輝きが、無意識にでしょうが、満ち溢れていたのです。
◇      ◇
私たちは常日頃、些雑な俗事と、冷めた皮肉の中で、一喜一憂しながら生きている気がします。でも、二十年に一度、伊勢の大神様へのご奉仕の一端を担わせていただいている、この日ばかりは、違うのです。「無邪気」とは、文字通り、邪気が無い。邪気のない童心にこそ、大神様の御心は、自ずからスッと入ってくるのだと、信じることができます。
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そんな有り難さに、胸を熱くしながら、また、それぞれの感懐を内に秘めながら、奉曳団はやがて、宇治橋の前に到着しました。
御橋を渡って、一人ひとり、白布にお白石を奉受します。ご神域を進み、新御敷地に進み入り、そして、静かにそれぞれが、何事かを思いながら、御石をそっと奉献もうしあげました。その、それぞれの心内に、立ち入ることはできません。
◇      ◇
私は、千数百年の時を超えて姿の変わらぬ、どこまでもシンプルな、簡素な、神明造の御神殿を仰ぎつつ、明日からまた、諸雑事に追われる身ながら、できるだけシンプルに、できるだけ虚飾を捨てて、日々を生きられればと思いながら、右手の現御敷地にまします大神様を、そっと遥拝させていただきました。
なかなか、そうはいかない自分をお祓いいただきますように、と念じながら……。 (茨城・TS)

お白石奉献 ロシアからの参加者からの感想

●お白石持ち行事という神聖な祭りに参加させていただき、本当に感謝しています。
ロシアから参加した23名は一人残らず、日本と日本人のさまざまな側面を見て、驚き、魅了され、深い感動を覚えました。
新しくなった伊勢神宮に白い石を運ぶために、みなさんの列に快く引き入れていただき、内宮の秘められた場所まで立ち入って、みなさんが敷いた白石のそばに私たちの石を置かせていただいたことを一生忘れません。新しい木造の建物がまるで金のような輝きを放つとは、この目に見るまで想像できませんでした。
境内からは何とも言えない不思議な力が感じ取られました。私たちロシア人は、宗教も違えば習慣や見方も違うのですが、それでも境内に入る時は全員緊張していましたし、白石を大切に持っていましたし、最後は鳥居の前で深々と頭をさげていました。
日本はまるで底なしの井戸のようです。汲めども、汲めども枯渇しません。何度来ても驚かされます。本当にありがとうございました。Ludmila(リュドミラ)

●私たち夫婦の人生の中で、今回の日本旅行はもっとも印象的なものとなりました。20年に一度しか行われない行事に参加できたことは非常に感慨深いものです。外国人であるにも関わらず、日本の皆さんは快く受け入れてくださり、独特な雰囲気の中で、多くの参加者との一体感を体験することができました。Andrey and Nadezhda(アンドレイ、ナデージダ)

●伊勢の行事は記憶の深いところに刻みこまれました。日本には外国人をひきつける数多くの場所や行事がありますが、ただ見るのと実際に参加するのでは、印象が天と地の差といえるぐらい違います。傍観者ではなく、参加者であることは、こんなに素晴らしいことだったのかと、初めてわかりました。しかも日本人ですらなかなか入れない、20年に1度の神聖な場所を見ることができたので大変感激しました。Fedor(フョードル)

●日本の神様の「引っ越し手伝い」ができ嬉しいです。日本一神聖な場所で、「日本とロシアが永遠なる友人になれますように」とお願いしておきました。Nikolay and Irina(ニコライ、イリーナ)

●世界中を旅しましたが、伊勢神宮の行事に類する祭りに出会った事はありません。感激しました。皆さんと一緒に、精一杯の声を出して「えんや~」と叫びました。Alexander(アレクサンダー)

●3度目の日本、そしてもっとも印象深い日本旅行となりました。帰ってきてからもたびたび伊勢の行事を思い出します。いつか必ず、伊勢神宮をもう一度訪れたいと思っています。Nina(ニーナ)

瀧原宮参拝
8月2日、内宮御正宮への御白石奉献を無事におえたあと、希望者は、度会郡大紀町に鎮座する皇大神宮(内宮)別宮の「瀧原宮」を参拝しました。
瀧原宮は、伊勢市の西部を流れ、御白石を採集する宮川の、およそ四十キロ上流の、大内山川が流れる滝原(旧大宮町)に鎮まっています。鳥居をくぐり、大スギが立ち並ぶ参道を進むと、深い社叢におおわれた境内は、まるで別世界。心洗われる静寂の時が流れます。
宮域には瀧原宮(たきはらのみや)と瀧原竝宮(たきはらならびのみや)の二つの別宮が並び立ち、来年の遷御を待っています。ご祭神は、両別宮ともに天照大御神御魂(あまてらすおおみかみのみたま)で、瀧原宮にはその和御魂(にぎみたま)、瀧原竝宮には荒御魂(あらみたま)が祀られています。
敷地内には、瀧原宮が所管する社が三社(若宮神社(わかみやじんじゃ)、長由介神社(ながゆけじんじゃ)、川島神社(かわしまじんじゃ、長由介神社同座)あります。特に、見ていただきたいのは。所管社の若宮神社に併設される、神体を入れる御船代を納める御船倉(みふなぐら)で、御船倉を持つ別宮は瀧原宮しかありません。
滝原宮を参拝ののち、参加者は伊勢市駅までもどり、満足してそれぞれの帰路についたのでした。

2015年6月28日