2016年6月28日(火) 花、静かに散る

「エリゲーナさ~ん」 私が手をあげて呼ぶと、その人は大勢のなかからめざとく私をみつけて、大きく手を振った。極寒の一月、モスクワの街に春風が吹いたような、あたたかい優しい笑顔だった。

あの人にもう会えない。ロシアの指導的な日本学者だったエリゲーナ・モロジャコワ教授が、今月、モスクワで逝去された。モスクワ国立大学を卒業された歴史学者。ロシア科学アカデミー東洋学研究所副所長・日本研究センター長。日本に関するロシア語、日本語の著作・論文は数えきれない。

東京で、ロシアで、夫と私は彼女と幾度となく会い、話しあい、相談しあい、笑いあい、助け合った。夫が理事長をラヂオ局にて、私が事務局長をつとめた国連NGOのモスクワ代表部所長を引き受けてくれ、任期期間にロシア語で数冊の神道の本を書きあげ出版、講演もしてくれた。モスクワのラジオ局で一緒にインタビューも受けた(写真)。卓越した学者であるとともに、素晴らしい女性だった。

夫が亡くなった後に設立した「梅田善美日本文化研究基金」。そのなかで私は、ロシアの若手日本学者育成のために、毎年一人に研究成果をロシアで出版する資金を提供することにした。エリゲーナさんはその案に大賛成され、受賞者選定の労をとってくれた。そして、今では優れた日本研究者であり日本の大学で教授として教鞭をとられる息子さんが、編集から出版まですべてを取り仕切ってくれる。そのシリーズも、今年で3冊目になる。DSC00378-2

エリゲーナさん、天国で私の夫と会えましたか。今ごろはきっと、二人でワインでも飲みながら、次の出版物の相談でもしているのでしょうね。

2016年6月20日(月)これからの時間をどう過ごそう?

定職を失ったとき、これから有り余るであろう時間をどう消化しようかと頭をひねったものだが、よくしたもので、人から頼まれたり、自分で興味があることなどを少しずつ始めていったら、今では時間が足りなくなるほどになった。公文書館

とはいえ、これというほどのこともしていない。ボランティアで日本語を教えたり、NPOの事務を手伝ったり。好きなところも増えた。小石川の植物園で樹木を眺めるのも好きだし、上野地域に立ち並ぶ博物館・美術館を巡るときは、これぞ東京にいる醍醐味と思うときがある。皇居もよく一周する。はまっている、というほどではないが、皇居に近い国立公文書館も気に入っている。昨夏は「戦後七十年の原点」と銘打ち、「宣戦の詔勅」、鈴木貫太郎内閣の成立から「終戦の詔書」などの原本が展示され、初めて見て感激した。このことは、以前このブログにも書いた。

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熱心にのぞき込む

今年の憲法記念日には、日本国憲法の原本が展示された。同時に「徳川家康展」も開催され、最近の歴史ブームのせいか見学者が多く、ずらっと並んだ家康関係の古文書を熱心に覗き込んでいた。古文書というと、文字通り古い文書だから、くずし字で書かれていてとても読めないと言う人が多いが、実際には明治に入ってもけっこう使われていた文字だし、江戸時代には子どもでも読めたのだ。それを、教えてもらっていないからと言って最初から敬遠するのは、ちょっと悔しい。

というわけで、私も昨年の春から古文書に取り組み始めた。一年近くたって読めるようになったかって? とんでもない、読めない。「家康展」に並んでいた文書も、自慢じゃないが、ほとんど読めない。こんなときには、よし、がんばって読めるようになるぞ、とひそかに誓うのだが、館を一歩外に出るときれいに忘れてしまうのは、きっと年のせいだろう。