すべてはこの一本から始まった

 2月、伊豆の河津町の桜まつりに出かけた。「河津桜」はご存知のように、3月上旬に満開を迎える早咲きの桜。河津川の川沿いには、約4kmにわたって濃いピンクの桜並木が続く。
 ところがあいにくの小雨もよう、それに押し寄せる多国籍の観光客の波におそれをなし、私は道をはずれて、河津桜の原木というのを見に行った。樹齢約60年、幹回り110センチを超す大木は、すでに盛りは過ぎていたが、それでもピンクの花を身にまとい、警備員に守られて枝を広げていた。

 河津桜は、カンヒザクラとオオシマザクラの自然交配種だという。この家のご主人が偶然見つけてわが庭に移植した小さな若木が、なんと今では日本じゅうに広がり、春の訪れを告げる早咲きの桜として愛されている。
 桜といえばソメイヨシノが圧倒的に多い。ソメイヨシノは江戸の染井村の植木屋がカンヒザクラとオオシマザクラをもとに品種改良したものだそうだ。今では日本の桜の代名詞ともなったソメイヨシノだが、それにも原木があり、全国のソメイヨシノはそのクローンだという。何ごとにも初めの一本があり、それが大切に慈しみ育てられるからこそ、広がるのだろう。