マンガとイヤリング

 姉の娘、つまり私にとっての姪から郵便物が届いた。開けてみると、マンガの本が…。
 彼女がマンガを描くことを生業していることは知っていたが、知っているのと現物を手に取ってみるのとは大違いだ。驚いて母親に電話してみると、雑誌に連載したり単行本も何冊も出していて、知る人ぞ知るマンガ家なのだという。

山内規子 彼女と犬の恋愛事件
 自分の身内にマンガ家がいることに驚き、本を開いてまた驚いた。なかなか難しいものだ。気がつかないうちに、頭が固くなっていたのだろうか。
 ともあれ、「ありがとう」とラインしたら、今度は手製というイヤリングが送られてきた。描くのに疲れた頭には、パーツを並べてイヤリングやペンダントを作る手仕事がいいらしい。


 なかなかステキじゃないか、耳たぶに穴をあけていない私は、片方を落としながらも、イヤリング派だ。マンガと違って、これは頭が固くても、耳さえあれば問題ない。ありがたく頂戴することにした。
 もし皆さまのなかで、どんな本なのか読んでみようという方がいたら、ぜひ一冊よろしく。なおかつ、ご感想を聞かせていただけたら、叔母としては感謝するのみだ。


 『彼女と犬の恋愛事件』青泉社、著者・山内規子、本体価格・720円

 

台風一過

 「江戸川が大変らしい」と聞いたのは、東日本各地に甚大な被害をもたらした台風19号が去っていた10月13日だった。
我が家から江戸川までは徒歩15分の距離。さっそく行ってみると、土手や橋には、人々が三々五々立って、増水した川をみつめていた。

 平素のおだやかな姿とはうって変わって、鉄橋すれすれに濁流が渦を巻きながら流れていく。流量調査の人たちが、2本の綱の先に器機を結んで橋から流していた。

 いつも少年たちが走り回る河原の野球グランドも、大人たちの遊歩道も、すっかり水に埋もれてしまった。

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 後日再び川を見に行くと、水も静まり水位もだいぶ低くなっていた。だが、いまだにサイクリングロードをおおっているのは、茶色い水とそれが運んできたゴミ。それもほとんどがプラスチックゴミだ。それがゆっくりと川をくだっていく。いずれは太平洋に流れていき、海の厄介者になるのだろう。

 見上げると、青く澄んだ空にスカイツリー、その向こうには富士の山が浮かんでいた。

名峰に挟まれて

トップの写真をご覧あれ。広い関東平野とそれよりさらに広い青空の向こうに、かすかにかすむ山が見えるだろうか。関東の東に二つの峰をくっきりとそびえて立つ秀麗なこの山は、筑波山。「筑波嶺(つくばね)の峰より落つる男女川(みなのがは)」と、百人一首にも詠まれて名高い秀峰だ。

 さて時が過ぎ、夕暮れになり、180度首をめぐらして西を見ると、遠くに望まれる霊峰富士の姿。私が立っているここは、千葉県市川市のアイ・リンクタウン展望施設。地上150メートルからの、360度の大パノラマを誇る。

 古来「西の富士、東の筑波」と並び称される二つの名峰を左右にみて、月に二度、一階下の図書館で借りた本を読みながら、優雅にコーヒーを飲むのが、最近の私のもっぱらの楽しみだ。
 お近くに来られたら、ぜひJR市川駅前で一番高いビルの45階で、ボーっとしている私を探してください。お待ちしています。

すべてはこの一本から始まった

 2月、伊豆の河津町の桜まつりに出かけた。「河津桜」はご存知のように、3月上旬に満開を迎える早咲きの桜。河津川の川沿いには、約4kmにわたって濃いピンクの桜並木が続く。
 ところがあいにくの小雨もよう、それに押し寄せる多国籍の観光客の波におそれをなし、私は道をはずれて、河津桜の原木というのを見に行った。樹齢約60年、幹回り110センチを超す大木は、すでに盛りは過ぎていたが、それでもピンクの花を身にまとい、警備員に守られて枝を広げていた。

 河津桜は、カンヒザクラとオオシマザクラの自然交配種だという。この家のご主人が偶然見つけてわが庭に移植した小さな若木が、なんと今では日本じゅうに広がり、春の訪れを告げる早咲きの桜として愛されている。
 桜といえばソメイヨシノが圧倒的に多い。ソメイヨシノは江戸の染井村の植木屋がカンヒザクラとオオシマザクラをもとに品種改良したものだそうだ。今では日本の桜の代名詞ともなったソメイヨシノだが、それにも原木があり、全国のソメイヨシノはそのクローンだという。何ごとにも初めの一本があり、それが大切に慈しみ育てられるからこそ、広がるのだろう。

なぞのお地蔵さま

 暖かな2月のある日。里山には小川が流れ、足元にはコバルトブルーの可憐な小花が咲く。花の名前は…、気の毒なので書かない。

あれっ、あの角のあれはなんだ? もちろんよく通る道だから、何かはわかっている。お地蔵さまだ。いつもきれいに花などが供えられているのだが…。

でも、これはいつもと違う。この豪華さはなんだ。ひな祭りが近いせいか、花や果物、子どもの好きそうなお菓子やパンやクッキーなどが、びっしりと供えられているではないか!

 拝むのも忘れてボーゼンと立ちつくす私のそばに、老人が「おお、これはすごい」と言って立ち止まった。「ここで交通事故でもあったのかな」
 でもこれはとても1軒の家で用意できる量ではありませんよ、などと話していると、今度は自転車でとおりかかった近くに住むという年配のご婦人が、「これはね、水子の供養だから、食べてあげるといいんだよ」と、パンとミカンを2つ3つ、自転車のカゴにほおり投げて走り去った。なるほど、長く生きている人はよく知っているものだ、と我が身も忘れて感心する私だった。

気になる建物の正体は…

上野公園に立つ東京国立博物館の、ほんとの意味での一角に、白い四角い建物があるのにお気づきではありませんか。近づくと「旧博物館動物園」という文字が。

上野駅・日暮里駅間に以前あった京成電鉄の地下駅で、1933年12月に開業され、2004年に廃止された駅だそうです。ご料地に建てられたので、なかなか荘重な趣です。この気になる建造物が、2019年2月24日まで一般公開されているというので、行ってきました。

一般公開といってもすごい人気で、予約は早々と満員となり、金土日は一般向けに10時から整理券が配られるというので、9時前に行ったのですが、小雪が舞うなかアッという間に長蛇の列。整理券にありつけなかった人たちが諦められない様子で、係員は質問攻め。

さあ時間です。入ってみましょう。入口のレリーフは今回の公開のために、新しくつくりかえられたそうです。ドアを開くと真ん中に、大きな白いアナウサギが穴を掘っています…。なんでかなと思うかたは、京成電鉄のホームページを探してお読みください。

薄暗い階段を下りていくと、突き当りに柵があり、その向こうに昔の切符売り場が。でもそこまでは行けないので、柵のあいだから写真を撮るのみ。この駅は4両編成用にできていて、現在の長さの車両は止まれないため、閉鎖されたのだそうです。

狭い構内には昔の落書きが残されていたり、動物園駅らしく動物の骨格標本が並んでいましたが、フーン、という感じで出てきました。